最終更新日 2022-10-05
豊かな自然と歴史に育まれ、風光明媚な町々が点在する瀬戸内。そのなかでも特に町歩きが楽しい場所のひとつが、「坂の町」として知られる広島県尾道市です。
斜面にへばりつくようにして段々畑のように民家や寺社が連なる山側と、フェリーや漁船が行き交う尾道水道が描き出す風景は情緒たっぷり。その街並みをひと目見れば、数々の映画やドラマの舞台になってきたのも納得です。
見る者の想像力をかき立てる、ノスタルジックな坂の道・尾道を満喫するモデルコースをご紹介しましょう。
記事の目次
「坂の町」の情緒が魅力の尾道


広島県尾道市は、瀬戸内しまなみ海道の本州側の起点。坂の多い街並みと尾道水道が織り成す情緒あふれる景観から、多くの映画やドラマのロケ地になったほか、作家や画家など数々の文化人たちをも魅了してきました。


昭和の面影を残す商店街を歩いたり、歴史ある寺社を訪ねたり、坂の上から尾道水道を見下ろしたり……。尾道はそんな気ままな町歩きが似合う場所。町の日常を感じながら、ゆったり流れる時間に身を任せましょう。
尾道の観光スポットの周り方


尾道は狭い範囲に多くの見どころが集中しており、かつ観光は坂の多い山側がメインとなるため、必然的に徒歩移動が中心となります。
ただし、尾道駅から古寺めぐりコースの最東端に位置する浄土寺や海龍寺までは2kmほど離れているため、すべてを徒歩でめぐるのは少々大変。尾道駅から徒歩で散策を楽しみ、浄土寺や海龍寺まで足を延ばした後はバスで戻るなど、要所要所で公共交通機関を利用することにより無理なく見て周ることができます。


また、山側は階段や坂道が多いため、自力で登るのは骨が折れるもの。行きはロープウェイを利用して千光寺山にのぼり、帰りは情緒ある路地を徒歩で散策しながら戻ってくるのがおすすめです。山側の階段や坂道には、足場が悪い箇所もあるので、スニーカーなど歩きやすい靴で出かけましょう。
レトロな「尾道本通り商店街」をそぞろ歩き


尾道にノスタルジックな趣を添えているのが、尾道駅前から延びる「尾道本通り商店街」。全長約1.2kmにおよぶ日本有数の長さを誇る商店街で、「芙美子通り」「土堂中商店街」「本町センター街」「絵のまち通り」「尾道通り」の 5 つの商店街からなっています。
商店街沿いには約 210の店舗が軒を連ねており、カフェやレストラン、雑貨店や土産物店、食料品店など多彩なお店の数々が旅行者の目と舌を楽しませてくれます。
古い銭湯を改装した「大和湯 -YAM TOU-」で中華ランチ


本通り商店街の名物的存在のひとつが、古い銭湯を改装した「大和湯 -YAM TOU-」。以前は「ゆーゆー」というカフェとして営業していましたが、閉店。その後2021年5月に、小籠包や餃子を中心とした町中華のお店として生まれ変わりました。


下足箱や鏡など、銭湯時代の趣をそのままに残した店内は「レトロ×ポップ」な雰囲気。「大和湯ランチ」は980円というお手頃価格ながら、小籠包と餃子、シュウマイなどがセットになったボリュームたっぷりの内容。自慢の小籠包はオーダーを受けてから皮を伸ばして包み、蒸したてを供する本格派で、お店のデザインはもちろん味も裏切りません。
「尾道浪漫珈琲」の自家焙煎コーヒーでひと休み


尾道本通り商店街に本店を構える「尾道浪漫珈琲」は、古き良き時代思わせるノスタルジックなムード漂う喫茶店。店先までコーヒーの香ばしい香りが漂ってきて、ここだけ時間がゆっくりと流れているような気がします。


一杯ずつていねいに淹れる自慢のコーヒーは、香り高い自家焙煎。ティータイムにはサクッと焼き上げたワッフルも人気です。
映画の舞台となった尾道最古の神社に参拝


千光寺山ロープウェイ山麓駅に隣接する「艮神社(うしとらじんじゃ)」は、尾道最古の神社。境内に入ると、幹の周囲が約7.5m、高さが25mもあるという樹齢900年の巨大なクスノキの存在感に圧倒されます。このクスノキは県の天然記念物に指定されており、まるでこの大クスが社殿を守っているかのよう。
艮神社は、大林宣彦監督の映画『時をかける少女』や『ふたり』のロケ地としても有名。決して大規模な神社ではありませんが、そのただならぬ存在感はストーリー性を感じさせます。
艮神社
■住所:広島県尾道市長江一丁目3-5
■電話:0848-37-3320
ロープウェイで尾道のシンボル・千光寺へ


対岸の向島からも見える尾道のランドマークが千光寺。806年に弘法大師によって開かれたと伝わる、1200年の歴史を誇る名刹です。
坂の上にある千光寺へ行くには、千光寺山ロープウェイの利用が便利。ロープウェイ山頂駅から「文学のこみち」を通って中腹まで下りると、千光寺の境内へとたどり着きます。


舞台造りの朱塗りの本殿は、別名「赤堂」とも呼ばれる尾道のシンボル的存在。尾道ゆかりの作家・林芙美子はベストセラー『放浪記』のなかで、「赤い千光寺の塔が見える」と記しました。


高台に位置するだけに、境内からの眺めも抜群。本堂や”残したい日本の音風景100選”に選定された「鐘楼」のそばからは、旅情を誘う尾道水道の風景が一望できます。
縁結びのパワースポットとしても知られる千光寺。恋文を結んだかんざしが入った赤い紐のお守りと、小判とお米の入った白い紐のお守り2つがセットになった縁結びのお守りは、男性は白い紐、女性は赤い紐のお守りを持っておくと、ペアで持つ人を探してくれるのだとか。「このお守りで恋が叶った」という報告が多数寄せられていて、口コミで話題になっています。
「猫の細道」で絵になる風景を探す


ノスタルジック坂道や階段の道が張り巡らされている尾道の山側は、路地散策が楽しい場所。なかでも艮神社の東側と天寧寺三重塔を結ぶ「猫の細道」に足を踏み入れると、物語の世界に迷いこんだかのような風景の数々に出会えます。


1998年から、アーティストの園山春二氏が「福石猫」を置き始めたことから「猫の細道」の愛称で呼ばれるようになりました。「福石猫」とは、丸い石に猫を描いたもの。福石猫としてデビューする前に艮神社でお祓いを受けており、「3回優しくなでると願いがかなう」ともいわれています。そのまあるい形とお茶目な表情は、見ているだけで顔がほころびますね。


「猫の細道」では、本物の猫に会えることも。グレーの地域猫に「このカフェいいよ」とおすすめされた気がして入ったのは「梟の館」。廃墟同然となっていた建物を利用してオープンしたカフェで、心地よい木の内装とアンティークに囲まれた店内に足を踏み入れると、異世界にやってきたかのような不思議な感覚が味わえます。
梟の館
■住所:広島県尾道市東土堂町15-17
■定休日:水曜日
※店内の写真撮影は禁止されています。
「茶房こもん」で自慢のワッフルを堪能


尾道の古寺めぐり中に小腹が空いたら、ロープウェイ乗り場のすぐ近くにある「茶房こもん」へどうぞ。1977年にオープンしたワッフルの専門店で、大林映画のロケ地としても知られています。
テラス席を設けた、白と黒を基調とした瀟洒な外観がメルヘンチックな雰囲気。「茶房」の名の通り、黒塗りの木が印象的な店内はより和カフェのような雰囲気です。


写真は「木いちごとクリームチーズのアイスクリームワッフル」。注文を受けてから焼き上げる「茶房こもん」の手作りワッフルは、驚くほど軽く、サクッとしているので見た目はボリューミーでも案外ぺろりといけてしまうのがポイント。ワッフル生地自体は甘さ控えめなので、甘酸っぱいベリーのソースや、アイスクリーム本来の風味がぐっと引き立っています。
国宝の寺・浄土寺にお参り


尾道の7つの古寺をめぐる「七佛めぐり」コースのなかでも、千光寺とともに必ず見ておきたいお寺が「浄土寺」。
境内一帯が国指定文化財に指定されており、本堂や多宝塔は国宝に、山門や阿弥陀堂は国の重要文化財に指定されている「国宝の寺」として親しまれています。とりわけ、鮮やかな赤が印象的な多宝塔は圧巻の壮麗さ。


浄土寺の歴史は飛鳥時代にさかのぼり、616年に聖徳太子によって創建されたと伝えられています。足利尊氏が必勝祈願に立ち寄ったというエピソードでも有名。尊氏公の白鳩伝説にちなみ、フォトジェニックなハトの絵馬に出会えるほか、本物のハトもたくさん見かけます。
夕暮れの海岸通りをお散歩


尾道観光はどうしても名所旧跡が集中する山側と商店街の周辺に偏りがちですが、港町・尾道を体感するために、ぜひ海岸通りも歩いてみたいもの。
特に、あたりが薄暗くなり、空が赤みを帯びてくる夕暮れどきの海岸沿いはムード満点。海上にたくさんの漁船が停泊し、フェリーが行き交う尾道水道の景色を眺めていると、刻一刻と過ぎていく時間の尊さと美しさを感じます。


白いベンチが並ぶ土堂突堤は、NHKの連続テレビ小説『てっぱん』の主人公あかりが海に飛び込んだ場所。歴史ある港町ならではノスタルジックな風景が心に染みますね。
ハイセンスなリノベホテル「HOTEL CYCLE」にステイ


近年、尾道で最も注目を浴びているスポットのひとつが、ホテルやレストラン、カフェ、セレクトショップなどを擁する複合施設「ONOMICHI U2」。広島県の海運倉庫を改修し、全国初のサイクリスト向け施設として、2014年にオープンしました。


倉庫時代の趣を残しつつも、ヴィンテージ×スタイリッシュに仕上げた空間は、サイクリスト以外の旅行者にも大人気。日中は、ランチやカフェを楽しむ人、高感度なお土産を買い求める人など、多くの人々で賑わっています。


「ONOMICHI U2」の中核施設となっているのが、「HOTEL CYCLE」。日本初の自転車に乗ったままチェックインできるフロントや、一部客室を除き自転車が架けられるサイクルハンガーを設置するなど、サイクリストに嬉しいサービスや設備が整っています。
もちろん、サイクリストではない旅行者も大歓迎。レトロとモダンが同居するハイセンスなホテルとして、女子旅やカップル旅をはじめ、幅広い旅行者に支持されています。
細部までスタイリッシュに統一された客室


「HOTEL CYCLE」の客室は19.9〜20.3平米の「スタンダードツイン」と、25.6〜26.9平米の「デラックスツイン」の2種類。元海運倉庫というだけあって、客室数はわずか28室と特別感たっぷりです。
日中食事客や買い物客で賑わう「ONOMICHI U2」のなかでも、照明を落としたホテルエリアはデザイナーズマンションのような隠れ家的雰囲気。「元海運倉庫のリノベーションホテルに泊まる」というだけでも貴重な体験ですよね。


筆者が宿泊したのは「スタンダードツイン」。約20平米の部屋ですが、バス・トイレ・洗面がひとつにまとまっているためか、居室部分は意外に広く感じます。


内装はシンプルながら、バスルームの壁面やナイトウェア、マグカップなどの備品にいたるまで、細部にもこだわりが詰まっていることがうかがえます。紅茶とミントをブレンドしたオリジナルの「BLEND TEA」は、渋みが少なく爽やかな後味がクセになるおいしさでした。
ローカル食材を使った料理が楽しめるダイニング


「HOTEL CYCLE」に宿泊するなら、「ONOMICHI U2」内のグリルレストラン「The RESTAURANT」でのディナーもおすすめ。コースのほかにアラカルトもあり、ピザやパスタ、お肉と野菜のグリルといった、スパニッシュイタリアンを主体とした料理の数々が楽しめます。


冬にぴったりのグラタンは、たっぷりの香ばしいきのことクリームの風味がベストマッチ。おいしいお酒とともに、シックな大人の夜を過ごしたいものです。
「HOTEL CYCLE」で迎える尾道の朝は、「The RESTAURANT」での朝食からはじまります。ランチやディナーは宿泊客でなくても利用できますが、朝食は「HOTEL CYCLE」の宿泊者だけが味わえるスペシャルなメニュー。「ButtiBakeryの厚切りトースト」「ハーブ野菜と生ハムのサラダ」「毎朝の卵料理」とドリンクがセットになっています。


決して奇をてらった内容ではありませんが、天然酵母を使用したモッチモチのトーストや、地元農家から届く旬のフレッシュ野菜、平飼い卵など、食材ひとつひとつにこだわっているからこそ、こうしたシンプルな味わい方が最適なんです。素材そのもののおいしさを感じられる朝食で、ハッピーな一日のスタートが切れますよ。
フェリーでわずか5分の対岸・向島へ


滞在時間に余裕があれば、フェリーで対岸の向島に渡ってみるのも港町ならではの体験。尾道から向島に渡る航路は3種類あり、いずれも5分前後という超短時間で向島に到着します。時刻表もなく頻繁に行き来しているので、桟橋に行って次の船を待つだけというお手軽さも魅力。


3つの航路のうち、土堂の桟橋から「尾道渡船」に乗ると、今も昭和の雰囲気が残る兼吉地区に到着します。桟橋のすぐ近くには、映画『あした』のロケセットで、現在はバス待合室として利用されている兼吉バス待合所が。内部には映画で使われた小物やパネルなども残っており、ファンなら必見です。


桟橋から徒歩圏内には、TV番組『マツコの知らない世界』でも紹介されたラムネが味わえる「後藤鉱泉所」や、大正時代から続く老舗パン屋「住田製パン所」といった注目のお店もあります。散歩を楽しみながら、昔なつかしい雰囲気にふれてみてください。
おわりに


独特の景観と優しい空気感が、今も昔も旅行者を魅了し続ける尾道。あなたもノスタルジックな坂の道で、忘れられない休日を過ごしてみませんか。尾道に宿泊して、朝昼晩と異なる景色や雰囲気にふれることで、尾道がもっと好きになれるはずです。