最終更新日 2022-10-06
レトロモダンな街並みが残る倉敷は、岡山県でも人気ナンバーワンの観光スポット。
江戸情緒漂う白壁の街並みを散策したり、「日本にあるのが奇跡」といわれる世界の名画と対面したり、古民家を改装したおしゃれなカフェやショップを訪ねたりと、コンパクトながら魅力満載。なつかしいのに新しいレトロモダンな倉敷へ、さあ出かけましょう。
記事の目次
フォトジェニック満載の倉敷美観地区


岡山県第2の都市・倉敷は、かつて江戸幕府の直轄地として栄えた歴史都市。1642年に幕府の天領となり、備中を支配する倉敷代官所が設けられると、綿花や米といったさまざまな物資が倉敷川の水運を利用して運ばれるようになりました。
倉敷の華やかな時代を今に伝えているのが、岡山人気ナンバーワン観光スポットの「倉敷美観地区」です。


JR倉敷駅から徒歩15分。国の伝統的建造物群保存地区にも指定されている倉敷美観地区に足を踏み入れると、柳がそよぐ川沿いに白壁の蔵や町家が連なる別世界の風景が広がっています。


柳の緑と白壁、灰色の瓦屋根がしっとりとしたコントラストを描き出し、まるでタイムスリップしたかのよう。


徒歩で十分周れるコンパクトなエリアでありながら、江戸情緒が残るフォトジェニックな街並みを散策したり、世界の名画にふれたり、岡山が誇る果物スイーツを楽しんだり、レトロモダンな「メイドイン倉敷」のデザインを体感したりと、楽しみは盛りだくさん。季節や時間帯を変えて、何度も訪れたくなる魅力がそこにはあります。
倉敷川を遊覧する「くらしき川舟流し」に乗って、川の上から美観地区の風景を楽しむのもいいですね。
世界の名画が集う「大原美術館」


倉敷美観地区のランドマーク的存在となっているのが、日本初の私立西洋美術館でもある「大原美術館」。イオニア式柱頭を模した柱をもつギリシャ神殿風の本館は、情緒あふれる町並みに唯一無二のアクセントを加えています。
世界の名画の宝庫として、全国的に名をとどろかせている大原美術館。その創設者が、倉敷紡績(クラボウ)や倉敷絹織(現在のクラレ)、中国合同銀行(中国銀行の前身)などの社長を歴任し、大原財閥を築き上げた実業家・大原孫三郎氏でした。大原氏は日本にほとんど美術館がなかった大正時代、画家の児島虎次郎氏とともに、世界各国から名画を買い集め、「日本にあるのが奇跡」ともいわれるほどの類まれなるコレクションを実現したのです。


大原美術館の一番のみどころといえば、スペインで活躍したギリシャ出身の画家エル・グレコの「受胎告知」。聖母マリアが天使ガブリエルから受胎を告げられる場面を描いた作品で、一瞬を切り取ったような劇的な構図と色使いに、誰もが圧倒されるはず。「これを観るためだけでも大原美術館を訪れる価値がある」といっても過言ではないほどの傑作です。
ほかにも、モネの「睡蓮」やゴーギャンの「かぐわしき大地」といった西洋名画のほか、岸田劉生や児島虎次郎などの日本画家の洋画や工芸、東洋の古美術など約3000点を所蔵。館内は写真撮影ができないため、ぜひご自身の目でその魅力を確かめてみてください。
「語らい座 大原本邸」で実業家の先見の明にふれる


大原美術館の向かいにひっそりとたたずむ「語らい座 大原本邸(旧大原家住宅)」は、1795年に建てられた大原家当主のお屋敷。なまこ壁や倉敷格子など、倉敷町家らしい意匠を備えていて、国の重要文化財にも指定されています。


660坪の敷地内に主屋、蔵、離れ座敷などが並んでおり、倉敷の伝統美を肌で感じられるのが魅力。離れ座敷から眺める日本庭園は、わびさびのつまった静寂の空間。とりわけ晩秋の紅葉は見事です。
倉敷建築の伝統美とともに斬新な空間展示も楽しむことができ、「ふりそそぐ言葉」では、天井から降ってくるような形で大原家の歴代当主の言葉を紹介しています。大原孫三郎氏の「十人のうち七人も八人も賛成するようなら、もうやらない方がいい」という言葉は、時代の先を読んだ実業家の「先見の明」を象徴しているといえるでしょう。
「阿智神社」から美観地区を一望


阿智神社は、倉敷美観地区の北東に位置する鶴形山の頂に建つ倉敷の鎮守。航海の安全を司る宗像三女神を主祭神とし、倉敷の街ができるずっと昔からこの地を見守ってきました。
美観地区を訪れてもここまで足を延ばさない人も多いのですが、倉敷に来て阿智神社を訪れないのはもったいない!というのも、神社としての歴史もさることながら、高台ならではの倉敷市街の眺望や岡山県の天然記念物に指定されている藤など、実は見どころの多いスポットだからです。


美観地区から石段をのぼってたどり着く拝殿は、重厚な存在感たっぷり。境内には県の天然記念物に指定されているアケボノフジもあり、樹齢はなんと500歳。毎年5月初旬には「藤まつり」も開催されます。


阿智神社を訪れたら、高台からの倉敷市街の眺めも必見。グレーの瓦屋根が連なる風景は、穏やかな湖を思わせます。美観地区に着いたら、まずはここから全体の位置関係をチェックするのもいいかもしれません。
「くらしき桃子」でフルーツパフェを堪能


町家を改装した古民家カフェをはじめ、個性豊かなカフェが点在する倉敷美観地区は、カフェめぐりも楽しみのひとつ。なかでもフルーツ好きにおすすめなのが、岡山の青果会社直営のカフェ「くらしき桃子 総本店」です。
2階建ての店内は、木のぬくもりを感じるノスタルジックな空間。アール・ヌーヴォーの巨匠・ガレのガラス工芸作品にも注目してください。
くらしき桃子にやってきたなら、やっぱり青果会社直営ならではのフルーツパフェは外せません。旬のフルーツをふんだんに使ったパフェが名物で、年間約20種類、常時約5~6種が楽しめます。


筆者がいただいたのは、6月下旬~2月下旬頃までの「ぶどうパフェ」。ニューピオーネやシャインマスカットなどを使った見た目にも可愛らしいパフェで、ゼリーやピオーネのシャーベットで後味もさっぱり。くらしき桃子のパフェは、余計なものを入れず、純粋にフルーツを楽しめるように作られているので、フルーツ好きならきっと大満足のはずです。
一番人気は、6月中旬~9月中旬頃に登場する「桃パフェ」。主役となるフルーツは季節ごとに入れ替わるため、時期を変えて何度も足を運びたくなるほど。


総本店のほかに「倉敷本店」「倉敷中央店」「市民会館店」の計4店舗が徒歩圏内に集まっており、同じ時期でも店舗によって食べられるパフェが異なります。事前にホームページでメニューをチェックして、食べたいパフェがある店舗を狙って訪れるのもいいですよ。
「倉敷珈琲館」でスローな時間を味わう


倉敷美観地区で「おいしいコーヒーが飲みたい」「ちょっとひと休みしたい」、そんなときは「倉敷珈琲館」の扉を開けてみてください。「倉敷珈琲館」は1971年創業の珈琲専門店で、厳選して仕入れた豆を一杯一杯丁寧にネルドリップで淹れることにこだわり続けてきました。


美観地区の中心部にありながら入口があまり目立たないため、明治初期の古民家を改装したという店内は隠れ家的なムードたっぷり。外がにぎわっていても、ここだけ時間がゆっくりと流れているように感じられます。


定番のブラックに加えて、「ウインナーコーヒー」や「カフェ・ブラン」などのバリエーションコーヒーもおすすめ。ホットカフェオレの上にたっぷりの生クリームを乗せたカフェ・ブランは、心も身体もあたたまる、スイーツ感覚で楽しめる一杯です。
「つばめ喫茶室」で身体がよろこぶランチを


さまざまなランチスポットがある倉敷美観地区のなかでも、身体が喜ぶほっこりランチを楽しみたいときにうってつけなのが「つばめ喫茶室」。美観地区の多目的施設「倉敷物語館」内に2019年にオープンしたカフェで、肉や魚、乳製品を使わないヴィーガンメニューが味わえる希少なお店なんです。


「連島ごぼうと和風ハンバーグ定食」は、一見普通のハンバーグと唐揚げが載った定食のように見えますが、お肉はいっさい使っていません。連島ごぼうをはじめとする倉敷の食材を「焼いて、煮て、揚げて」楽しめるヘルシーランチで、たっぷりのお野菜とやさしい味つけに心も身体も癒されます。
ランチメニュー以外に、スイーツやドリンクのメニューもあるので、ちょっとした休憩に利用してもいいでしょう。
倉敷美観地区は夜の散歩もおすすめ


倉敷へは岡山などから日帰りで訪れる人も多いですが、実は倉敷美観地区が本領を発揮するのは「夜」。週末の日中は多くの人でにぎわう倉敷美観地区ですが、夜のとばりが下りると昼間の人出が嘘のように、ひっそりと静まり返ります。


江戸情緒を残す倉敷美観地区はよく「タイムスリップ」という言葉で形容されますが、幻想的な夜の美観地区を歩くと、本当に時間が止まってしまったかのような感覚に包まれるんです。特に、まだ外に青さが残っている時間帯は、白壁とオレンジの街灯、水面に映る家並みがひときわよく映え、ため息が出るほどの美しさです。


日中にアート鑑賞やカフェめぐり、ショッピングなどを済ませ、ちょっとホテルで休憩した後、ふたたび美観地区に繰り出して夜の街並みを堪能すれば、1度で2度おいしい旅になること請け合い。夜の美観地区の風景を楽しむためにも、ぜひ倉敷での宿泊を検討してみてください。
「大橋家住宅」で大地主の生活に思いを馳せる


続いて、倉敷美観地区周辺の観光スポットをご紹介しましょう。倉敷美観地区のすぐ外にある必見スポットが1796年築の「大橋家住宅」。江戸時代後期に塩田・新田開発で富を築いた大橋家の住居で、国の重要文化財にも指定されています。


主屋が直接通りに面していないため、近くまで来ても「本当にこのあたりにあるのかな」とちょっと不安になってしまうくらいですが、長屋門を抜けると威厳たっぷりの主屋が出現。時代劇に出てきそうな重厚感が漂っています。
長屋門は、当時通常の町家には許可されていなかった構造だったのだとか。こうしたことからも、大橋家が代官所から特別に許可されるほど力のある存在だったことがわかります。


語らい座 大原本邸(旧大原家住宅)同様、なまこ壁や倉敷格子といった倉敷町家ならではの建築様式を残していますが、旧大原家住宅と比べても規模が大きく、なおかつ当時の生活の様子が伝わってくるかのような臨場感があります。
現在公開されている部屋だけでも14部屋あり、部屋に上がったり庭を歩いたりすることもできるので、静かに流れる時間に身を任せながら、当時の大橋家の暮らしに思いを馳せてみましょう。
「古民家バル 旧本藤邸」でワインとともに夜を過ごす


倉敷で夜を過ごすなら、古民家を改装した粋なバルはいかがでしょうか。JR倉敷駅から徒歩約5分のところにある「古民家バル 旧本藤邸」は、料亭を思わせる風格漂う店構えでありながら、普段づかいもできるリーズナブルな価格設定がうれしいお店。


「お手軽に楽しむワイン文化を倉敷に作りたい」との思いから2014年にオープンし、自家製生パスタやナポリ風ピザ、肉料理など、イタリアンやフレンチを軸とした西洋風料理を提供しています。
庭園に面した店内は雰囲気抜群。店内奥には床の間を改装したワインセラーも備えており、約80種のワインが楽しめるほか、自家製サングリアやハイボール、サワーカクテルなど、さまざまなお酒が豊富にそろっています。


モチモチの生パスタやおいしいお酒とともに、会話も弾むこと間違いなし。特に週末は混みあうことも多いので、予約をしてからお出かけください。
「NAGI Kurashiki Hotel & Lounge」で暮らすようにステイ


「NAGI Kurashiki Hotel & Lounge」は、2020年3月にオープンしたライフスタイルホテル。JR倉敷駅から徒歩2分とアクセス至便でありながら、全室37平米以上という倉敷でも随一のゆったりとしたお部屋が自慢。1名から5名まで宿泊でき、1人旅からカップル旅、グループでの女子旅、ファミリー旅など、シーンに合わせて楽しめます。


筆者が宿泊したのは、畳付きツインスイートルーム。岡山のデニムや畳を取り入れたお部屋は、北欧デザインを思わせる洗練と和モダンが調和した、明るくやさしい空間です。


お部屋に入ってまず感じたのは「広い!」ということ。約45平米という高級ホテルにも匹敵する広々空間だけに、くつろぎ度が半端ではありません。すっきりとまとまっていながらも、布ブランド「NUNOUS」が手がけたウォールアートや萩原工業の畳など、倉敷らしさを散りばめたデザインに心がほっこりと癒されます。


ベッドルームとは別にソファエリアが設けられているので、のんびり本を読んだり、テレビを見たりしているうちに、暮らしているかのようにくつろげるはず。トイレ、バスルーム、洗面所がすべて独立しているので、グループでの宿泊にもぴったりですよ。
「あらゆる人たちにとって快適な滞在ができるホテル」を目指しているNAGI Kurashiki 。Hotel & Lounge宿泊予約をすると、タビマエから情報提供を通じて旅のプランニングをアシストしてくれるのも心強いポイントです。スタッフに知る人ぞ知る倉敷のおすすめスポットを尋ねてみましょう。
おわりに


主要な観光スポットを周って、ランチやカフェを楽しむくらいなら半日で観光できる倉敷ですが、倉敷に泊まって夜の美観地区の風景も楽しむことで、奥深い魅力が発見できます。


倉敷を訪れるなら、JR倉敷駅から電車で約1時間の広島県の尾道をセットで旅するのもおすすめ。ノスタルジックな雰囲気が漂う尾道も、倉敷同様、カフェやショッピングをしながらの街歩きにぴったりです。「レトロとモダンが同居する」という共通点がありながらも、まったく異なる個性をもつ2つの街をめぐってみてはいかがでしょうか。