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滋賀

琵琶湖周辺の湧水文化の象徴・「かばた」を体験する 針江地区の旅

最終更新日 2022-01-24

滋賀県高島市にある針江地区は、170戸ほどの小さな集落です。家々には、地下水を利用した水場・「かばた(川端)」があり、今でも飲み水に炊事にと使われています。このかばたの仕組みと、地域内の水路を清潔に保つ工夫は、環境白書でも「持続可能な自然資源利用」と評価されました。

観光スポットとしても大人気です。しかし、かばたや水路は観光のために維持されているわけではなく、見学には住民の生活を乱さないための配慮が欠かせません。針江地区やかばたを気持ちよく見学する方法をご紹介しましょう。

豊かな水に支えられてきた琵琶湖沿岸の暮らし

琵琶湖ならでは味といえば、鮒ずしがよく知られている。それ以外にも、モロコ・ゴリ・川エビのあめ煮(佃煮)など、淡水湖にしかない食品も多い。

琵琶湖ならでは味といえば、鮒ずしがよく知られている。それ以外にも、モロコ・ゴリ・川エビのあめ煮(佃煮)など、淡水湖にしかない食品も多い。 Photo by 柳本学

琵琶湖は、「近畿の水がめ」と呼ばれるのが常で、水資源の面ばかりが注目されがちです。あるいは、約400万年も前からある古代湖として、生態系に注目されることも珍しくありません。

一方で、沿岸には古代から人が住み、独自の暮らしと文化を発展させてきました。この地ならではの産物も少なくありません。それらを支える大きな要素は水です。この水には、琵琶湖にすでにたまったのものだけではなく、周囲の山々から流れ出たりわき出したりするものもあります。

「産物」でいえば、たとえば「江州米(近江米)」があります。特定の品種を指すのではなく、比良山地や鈴鹿山脈、伊吹山などから流れ出る豊かで清浄な水によってはぐくまれたコメ全般をいいます。特に江戸時代には品質の高さで知られました。

また、珍味として知られる鮒ずしは、もともとはお店で買うものではなく、各家庭の保存食でした。

水資源を持続的・安定的に利用し続けるための工夫「かばた」とは

わき出した水は順々に、元池(もといけ、右)・壷池(つぼいけ、左)・端池(はたいけ、奥)と送られ、最後は水路に出ていく。Photo by 柳本学

「独自の暮らしと文化」の代表はかばたでしょう。「かばた」とは、自噴する地下水を中心にしてつくった洗い場をいいます。また、この洗い場は集落の中を流れる水路ともつながっていて、これら水路まで含めて呼ぶこともあります。単に独自文化というだけではなく、「持続可能な自然資源利用」としても高い評価を受けています。

テレビ番組がきっかけで、貴重さに気がついた針江地区の人々

地下水や川を利用した洗い場は、かつては琵琶湖周辺にはあたり前にあったといいます。しかし、上水道の普及などでどんどん姿を消し、今では滋賀県高島市の針江地区に残るばかりになりました。

実は、この針江地区でも一時期は「かばたは残してあるが、実際に使うのは上水道ばかりの家が大半」になっていました。それを変えたのが、2004年・2005年に2回に渡って放送されたテレビ番組『NHKスペシャル 映像詩 里山 命めぐる水辺』でした。

この番組で、針江地区のかばた、かばたを使う人々の生活、かばたや水路に暮らす生き物が紹介されました。これをきっかけ観光客がやってくるようになり、針江地区を研究対象にする学者も増えました。

周りの反応をみて、針江地区の人々もかばたの貴重さに気がついたといいます。170戸ほどしかない針江地区の中に110カ所ほどのかばたが残り、昔ながらに飲み水や調理準備、食器洗いなどに利用されています。

自噴水を中心にした、かばたの仕組みとは

針江集落では地下10〜20メートルのところにまでパイプを通すと、地下水が自噴する。このわき出した水を「生水(しょうず)」という。Photo by 柳本学

針江地区は滋賀県北西部にあります。周囲は、比良山地から抜け出てきた安曇川が作った扇状地です。

比良山地に降った雨や雪は伏流水となり、約200年かけてこの扇状地まできます。針江地区では、10メートルか20メートルも掘ってパイプを通せば、地下水が自噴します。この水が、針江地区の人々の言葉でいう「生水(しょうず)」です。温度は年間を通じて13度程度です。水としての純度はあまりに高く、含有物が少ないために、宿泊施設の浴場に使っても「冷泉(25度以下の鉱泉)」を名乗ることができないぐらいです。

生水はまず、「元池(もといけ)」と呼ばれる小さめの区画に流され、飲み水などに利用されます。元池からあふれでた水を受けるのが「壷池(つぼいけ)」で、ここで野菜や果物を洗ったり、使用済みの食器類を洗ったりします。

さらにその水を受けるのが、「端池(はたいけ)」です。多くの場合、コイが飼われていて、調理する際に出る野菜くずや、使用済みの食器を洗ったときに出る食べ残しを食べてくれます。たとえば、鍋(なべ)や釜(かま)の底にこびりついたご飯やカレーもコイの大好物です。釜などを端池に数時間放置しておくと、すっかりきれいになります。これらには、「集落の人々が共有する財産である水路に、汚れを流さなくて済む」役割もあります。

環境白書でも「持続可能な自然資源利用」と評価

このかばたの仕組みと、水路を汚さないための暗黙のルールは、平成24年度(2012年度)版の『環境白書』(環境省)でも、「地域の共有財としての水資源(滋賀県高島市針江地区「かばた」の事例)」として採り上げられました。

白書では、「地域の生活に必要な自然資源について、その価値を自ら見いだして理解し、自らのルールで適切に管理することによって、ずっと利用しつづけようとする努力は、自然資源の持続的な活用の観点からは、最も基本的で重要な行動原理であると考えることができます」と、かばたを維持する針江地区を評価しています。

また、針江地区は2010年に国の文化的景観指定地域に、2015年には日本遺産に選定されました。

かばたを実体験するための手順

針江集落では住人が日常生活を送っている。見学者にはそれを乱さない配慮が必要だ。Photo by 柳本学

かばたは観光のために残されているわけではありません。大半は今でも各家庭が使う現役の洗い場です。また、地区の住民も当たり前に日常生活を送っています。かばたの中にまで入り込んではいけないのは当然のこと、地区の中を勝手に散策するのも慎みましょう。

しかし、だいじょうぶです。見学のための手順も整えられています。

住民の生活を乱さないための、針江の見学方法

かばたなど針江地区の見学は、針江生水の郷委員会で受けつけています。

おおよそのところ所要時間は1時間程度で、午前と午後の各1回です。地元の方が案内についてくださいます。

ただ、最近は新型コロナ感染症への対応で、申し込み方法などがときどき変更されます。同委員会のホームページをチェックし、最新の情報を手に入れるようにしてください。

針江で泊まるなら、集落近くのプチホテル

琵琶湖とその沿岸は、関西有数のレジャー基地だけあって、魅力的な宿泊施設はいくつもあります。しかし、旅の最大の目的がかばたならば、針江地区の中にあるプチホテル「ラシーヌホーム 針江」がおすすめです。

ラシーヌホーム 針江は2015年にオープンした。名物のひとつが、中庭にあるかばただ。画面中央の丸い部分が元池で、屋根の下へと筒で水が送られている。端池はそのまま周囲の池へとつながっていて、大きなコイが悠々と泳いでいる。Photo by 柳本学

池にいるコイは、人影を見ると寄ってくるため、小さい子どもは大喜びだ。水がきれいな上に浅いため、夏には安全な水遊びの場にもなる。Photo by 柳本学

夕食のメニューには、ビワマス・近江鴨・近江牛などがある。ビワマスは竹生島近く、琵琶湖ではもっとも水深の深いところで捕れた天然ものが使われている。Photo by 柳本学

おふろの湯も当然、生水だ。純水にかなり近いために、きわめて肌触りがいいお湯になっている。Photo by 柳本学

食堂の中にも、生水がわき出している。コップも用意されていて、そのまま飲むことができる。Photo by 柳本学

2階客室からかばたを望む。Photo by 柳本学

ラシーヌホーム 針江のフロント。統括マネジャーの高坂繁さん(右)はご自身は京都育ちだが、高島市はお母さんの出身地で、子どものころからよく遊びに来ていたという。Photo by 柳本学

針江地区への足と旅行プラン、おみやげ

針江地区への電車・自動車でのアクセス

JR湖西線・志賀駅周辺。京都方面(画面上)から針江地区のある新旭駅へは、琵琶湖を右に見ながら進む。Photo by 柳本学

針江地区への足は次のようになっています。

・電車の場合

JR京都駅から湖西線、新旭駅下車。新快速で約50分。駅からは徒歩で約20分

・自動車の場合

名神高速道路 京都東ICから湖西道路に入り約50分
北陸自動車道 敦賀ICで下り、国道161号経由で約50分
北陸自動車道 木之本ICで下り、国道8号・303号経由で約50分

また、針江地区内には針江生水の郷委員会が管理し、見学の際に利用できる無料駐車場があります。

周辺の観光スポット

高島市のマキノ高原にあるメタセコイア並木は、琵琶湖北西部の代表的撮影スポットだ。Photo by 柳本学

針江地区の見学は、1時間、あるいは時期によっては1時間半です。移動時間や待ち時間などを考えても半日あれば十分でしょう。ほかの観光スポットと組み合わせてはいかがでしょうか。

特に「琵琶湖を堪能したい」というのならば、今津港から出ている「竹生島クルーズ」が最適です。今津港は、針江地区からは直線で約5キロしか離れていません。JR湖西線ならば、針江地区のある新旭駅から1駅です。

あるいは、春ならば湖北の桜の名所・海津大崎もおすすめです。距離にして約4キロ、800本ものソメイヨシノが琵琶湖の水面ににせり出すようにして咲きます。

季節の果物狩りができる「マキノ農業公園マキノピックランド」も人気です。目の前は、2.4キロに渡りメタセコイアの巨木約500本が道路の左右に植えられていて、こちらは琵琶湖北部で1番といっていいぐらい、撮影スポットとして知られています。
<h3琵琶湖の文化を実感できるおみやげあれこれ

高品質な江州米(近江米)が取れる上、水も豊かなので、針江周辺には酒蔵がいくつもあります。中でも川島酒造( https://www.matsu87.jp/ )は仕込み水も生水です。見学や試飲もできますので、かばた見学のついでに足を伸ばすのもいいでしょう。

また、鮒ずしや湖魚のあめ煮ならば、針江地区内で製造・販売をしている「おさかな旭」があります。行く前に電話(0740-25-3319)を入れたほうがよいそうです。また、鮒ずしなどは周辺の道の駅でも必ず置いています。

かばたは現代に奇跡的に残ったエコシステム

見学コースに組み入れられている上原豆腐店では、豆腐を作るのにも置いておくのにも、生水を使っている。Photo by 柳本学

いつも澄んだ水が家の中や敷地内にあり、そこで野菜や果物を洗うかばたの様子に懐かしさを感じない人は、まずはいないでしょう。このかばたのシステムには、「水を汚さない・環境を汚さない」が十分に配慮されています。現代に奇跡的に残った。このエコシステムを、ぜひ見学にいきましょう。

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