最終更新日 2022-12-20
「愛犬と一緒に旅行がしたいけど、なかなか泊りたいと思うホテルが少ない。」そんな悩みを抱えている人もきっと多いはず。今回は、株式会社トラベルウィズドッグ代表取締役 中村貴徳さんに「愛犬と旅行をすること」への想い、そして活動の苦悩や業界に対する願いをお話しいただきました。
記事の目次
「世界中のどこへでも愛犬たちと共に」
– まずは自己紹介も含め、日々どのような活動をされているのかお聞きさせてください。
中村:はい。現在はトラベルウィズドッグという会社の代表をしており、「世界中のどこへでも愛犬たちと共に」という理念を掲げ、愛犬家の方々が愛犬と共にどこへでもいけるという社会を実現するために、日々全国の宿泊施設へペット受入を要請したり、取材・訪問などの仕事を通し、HP上やセミナーなどで声を大にして情報を発信しております。
– ありがとうございます。愛犬家の方々専用のコミュニティも運営されているとお聞きしましたが?
中村:はい。Travel With Dogサポーターズクラブという会員限定のコミュニティを運営しています。
– どのようなコミュニティでしょうか?
中村:日本は海外と比べ、愛犬を連れて旅行に出かけることに対し、デメリットや偏見ばかりに目がいってしまっています。いくつかある原因の一つが、「しっかりと躾をし、他の宿泊者に迷惑をかけない飼主も沢山いる」という事実が見過ごされていることです。そのため、TWDサポーターズクラブでは、「ルールとマナーを徹底して守る」と約束をした愛犬家のみを会員とし認め、「愛犬は我が子」と本気で思う方々しか入会できないようにしています。宿泊施設に「我が子も泊めてくれ」と求めるなら「すべては親として責任を取る」そんな想いで愛犬と暮らしている方だけを、宿泊施設へ紹介したい、そんな愛犬家と宿泊施設の懸け橋となるコミュニティだと考えています。
– なるほど。愛犬家が泊めてくれと願うのであれば、その裏側にある責任もしっかりと取る、そんな想いを共有した方々だけが集まる会員組織なのですね。他に何か会員の方々へのメリットなどはあるのでしょうか?
中村:メリットですか?(笑)よくある「入会してくれたら何かをあげる」とかいう物は一切なく、むしろ「迷惑をかける方は入会しないでほしいと」と呼び掛けています(笑)しいて「これがメリットだ」と言えるものがあるとしたら、それは愛犬家の皆さんの夢の代弁者となり、現在ペット不可の宿泊施設に対し、ペット受入を自らが嘆願しているところでしょうか。
きっかけとなった、母親と愛犬の死
海外に目を向け、その差に悩むことも


日本の旅行業界のペットに対する姿勢で感じたもの


– 日本全国のホテルをペットと旅したと思いますが、その旅を通して今の日本の旅行業界のペット、そしてペットを連れた宿泊客に対する姿勢でまだまだ足りないと感じたことはありますか。
中村:ペット連れの宿泊客をただの金儲けとして扱う宿も過去には沢山ありました。どうせペット連れはほかに泊まれるところも少ないし汚すのだからと、お世辞にも綺麗とは言えない部屋に案内されたり、同じ料金を支払っているのに、全く違う対応をされたことも多々ありました。私はお金をもらわずに取材に行っているので、そういった宿は当社サイトでは紹介しないようにしています(笑)
– 悲しいですが、事実としてそんな宿もあるんですね。


中村:またその逆もあります。「ペットは自分の命よりも大切な子供達」と日ごろ周りに伝えていながら、「ペット宿泊料金は5,000円です」と言われると「ペットに5,000円も取るのか!」と豹変する飼主さんも多く見てきました。私はそんな飼主さんに向かい「この子(犬)はあなたにとって大切な子供なんでしょ?なら子供料金を支払って子供として認めてもらいましょうよ」と語りかけています。
有名宿泊施設や老舗の感銘を受けた対応


– そのような苦悩も多い中、逆にこれは素晴らしいなと感じた経験などはありますか。
中村:日本のある外資系のホテルなんですが、ペットのことを人間同様に【ゲスト】と呼んでくれるんです。星野リゾートでも施設によってはロビーから部屋までケージに入れる必要もなく、リードで行けるようになっています。これもまた星野リゾートの素晴らしい部分だと思います。
– ペットもお子さんとして扱ってくれると愛犬家の方にとっては嬉しい気持ちになりますね。
中村:そうなんですよ。もう一つ私が特にお薦めしたい宿が、兵庫県の湯村温泉にある朝野家さん。ここは本当に素晴らしかったです。我々愛犬家は上記で幾度と述べたように「愛犬は命より大切な子供同然の存在」なんですよ。その愛犬家からすると「愛犬と一緒にご飯を食べれるかどうか」もかなり重要になってくるんですが、朝野家さんは全て部屋食か、部屋ごとに個室を設けてくれ、女将自らが製作してくれた我々人間と同じデザインの愛犬用浴衣まで用意して一緒に食事が食べられるんです。「あ~これが本当の家族だよな」と心熱くなる瞬間、もうこんなに嬉しいことはありません。そんな気持ちに自然となれれば、我が子の可愛い姿をSNSに載っけたくもなりますし、この宿に迷惑を掛けたくないという気持ちに自然となるものなんですよね。
– 素敵ですね。”家族”として扱ってくれていることがとても伝わってきます。


想いだけでなく、合理的な考えを持って説得を
– 中村さんはトラベルウィズドッグの代表として様々な宿泊施設に取材に行かれたと思いますが、その際にご自身で気をつけていることはありますか。
中村:まずは日本中の愛犬家を代表している気持ちを持って、チェックインした時より綺麗にして帰ることを心がけています。また、ただただ「ペットを泊まれるようして欲しい!」と一方的な要求だけ想いだけをぶつけるのではなく、しっかりと宿側にもメリットが出ることを伝えるようにしています。
– 具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
中村:ペットは今やホテル業界のブルーオーシャンなんです。少子高齢化社会が進み若い人が減っていく中、ペットの数はコロナ禍で今まで以上に増加しました。私たち愛犬家はペットのことを子どもと呼びます。子供と呼ぶからには本来であれば宿泊時にペット料金ではなく、子供料金を払うべきなんです。そうすることで、「ペット=リスクの塊」といった考えから、「ペット=利益を生み出す大切なゲスト」となり、1室に対しての利益を上げたいと考えている宿なら、必ず耳を傾けてくれるはずなんです。ボランティアでやっている宿なんてほとんどなく、皆さん事業として利益を出すことを目的として経営していますから、リスクだと思ったら前に進めない、大切なゲストと思ってもらえるように、我々愛犬家の意識も変わらなくてはいけないと感じています。
– 確かにおっしゃる通り、利益率が高くなりますね。
中村:それでも中々増えるスピードが上がらない理由としては、決裁権のある方に直接このお話しができないことです。経営者の方であれば理解してもらえることでも、実際に営業の電話をとってくださる方や掃除などを担当する方からすると、面倒な仕事だけが増え、自分たちの給料が上がらないと捉えられてしまうのが残念でなりません。
– そんな問題に対して何か工夫されていることはあるのでしょうか。
中村:もちろんです。私はやるかやらないかだけを経営者と話し、やると決まったら、現場の方々第一優先で「ペットを受入れた際のみなさんのメリット」をお話しするようにしています。
– どういうことでしょうか。
中村:ここは大切な企業秘密なのでここではお話が出来ませんが、最初は猛烈に反対されていたスタッフの方々を、皆さん笑顔で大賛成に変える業を私は持っています(笑)
旅行に悩むペット連れの方に伝えていきたいこと


– 日本には「ペットと一緒に旅行に行きたいけど、行けない」と思っている人がまだたくさんいるかと思います。そのような方に伝えたいことはありますか。
中村:愛犬たちと旅行に出掛けてみたいと思っているなら直ぐに行動に移してください。必ずや生涯忘れられない素晴らしい思い出になるはずです。犬の1日は人間の7日間とよく言われます。それは犬の寿命が15歳くらいだと仮定した場合、我々の7分の1しか時間がないからです。ともにこの地球という星の素晴らしさを体験できる時間はわずかしかないのです。愛犬とお別れする時、我々は必ず沢山の後悔をします。お別れの日に愛犬たちに後悔を詫びるのではなく、沢山の楽しかった思い出を語り掛けながら虹の橋へと送り出してあげて欲しい、私は常にそう思い、毎日を後悔なく愛犬たちと過ごすようにしています。
– 犬と人間の過ぎる時間は同じではないですもんね。
中村:そうなんです。どんなにお金持ちでも、偉い方でも、1秒すら時間を戻すことは出来ません。私は今まで4頭もの愛犬を虹の橋へと送り出してきましたが、その悲しみの中から愛犬たちに大切なことを教えてもらいました。世の中で一番大切なものはお金なんかではなく時間だということを。
明日は今日よりも幸せな一日にしよう、そんな考えで愛犬たちと過ごしてくれたら私も幸せです。
旅行にペットを連れてきて欲しくないと思っている人へ伝えたいこと
– 逆に「自分が行く旅行先にペットはきてほしくない」と思う方も少なからずいらっしゃるかと思いますが、このような方々に伝えたいことはありますか。
中村:言葉で伝えるということは特に必要ないと思っています。言葉で伝えるのではなく、私たちの行動をみて少しでも犬連れに対する価値観が変わってもらえたら嬉しいです。そのためにもTWDとしての活動はずっと続けていきます。これまで世界的大手自動車メーカーや国内最大規模の旅行会社など、多くの企業や心ある方々に協力していただきましたが、そんな方々に常に言ってもらえる言葉は「中村さんはずっと昔から語る夢が変わらないね。」という言葉です。いつになっても、「世界中のどこへでも愛犬たちと共に」という理念をブラさずに持ち続け、活動している自負があるので、そう言っていただけることは、私にとっては最大の褒め言葉なのです。
– 本日お話をお伺いしている中でも中村さんの芯の強さ、想いの強さが伝わってきました。だからこそ多くの方や企業が協力してくれるのだと感じました。
中村:そうだと嬉しいですね。亡き愛犬たちと約束をした未来を創り上げ、愛犬たちが待つ世界へと旅立てたらこの上ない幸せだと感じています。
国内にまだ眠っているマーケットにチャンスを。
– 今後のこの業界への想いや願いなどはありますか。
中村:少子高齢化やコロナなどの影響もあり、これからもインバウンドに頼っていく部分はあるかと思いますが、ぜひ国内にも大きなマーケットがあることに早く気づいて欲しいですね。まずはそのマーケットがどれほどのものなのか私の話に耳を傾けてもらえたら嬉しいです。
– 先ほどのお話に通ずる部分がありますね。ホテル業界にとってもこのマーケットを取ることはメリットになるはずですよね。
中村:はい。時折、10kg程度の犬を連れて旅行に行くことが、なんでこんなにハードルが高いんだろうと感じてしまうことがあります。インバウンドのような外に目を向けるだけではなく、国内にも貴宿に泊まりたいと願っている人はたくさんいることにも目を向けてほしいなと日々思っています。ただ願ってばかりでは何も変わらないので、全国にいる想いを共有する愛犬家の仲間たちと共に、行動でしっかりと証明していきたいと思っております。
– 少しでもattaもお力になれればと思います。本日はとても貴重なお話をありがとうございました。